くすりの玉手箱

私たちの身の回りには、健康食品や市販薬などの日常生活に身近なものから、特別な治療に使われるような一生お世話になることのないお薬が存在します。

ここでは一般市場に出回っているものから、医者の処方がないとお目にかかれないお薬について、 さまざまな角度から検証していきたいと思います。

時折ばっさりと切りすぎる面もあるかもしれませんが、「薬」の実情を知っていただくためのコラムなので苦情やお問合わせにはお応えできないことをご了承下さい。



今回は化学への誘いです。とある医薬品を用いた衝撃(?)の実験を紹介し、その原理、そしてその応用についてお話します。

「人工のイクラを作れる医薬品がある」

それはアルロイドGという、アルギン酸ナトリウムを有効成分とする胃粘膜保護剤です。通常、胃・十二指腸潰瘍やびらん性胃炎、逆流性食道炎の治療に用いられています。一方イクラとは、サケやマスの卵を塩漬けにした食品で、その名前は『魚の卵』を意味するロシア語(икра←イクラと発音)に由来すると言われています。しかし近年は工業的に生産される人工イクラが多く流通しており、スーパーや寿司屋でも人工イクラを使っているところは多いそうです。この人工イクラ、あるものを原料にして目玉はビタミンE等で作り、着色料で色を付け、海藻エキスで風味を付けて作られているのだそうですが、その原料こそがアルギン酸ナトリウム・・・つまりアルロイドGと同じなのです。では次のような実験をしてみましょう。

<材料>
・アルロイドG少々
・乳酸カルシウム2g(塩化カルシウムでもOK)
・他にはスポイト、コップ、ざるを用意

<方法>
@ 乳酸カルシウムを約200mlの水に溶かす
A @の溶液をかき混ぜながらアルロイドGを1滴ずつ滴下する
B 固形物をざるで濾し取って出来上がり(溶液の方は再利用可能)

出来上がりはこんな感じ
緑のイクラ

なぜこんなことになるかというと、アルギン酸ナトリウムはアルギン酸とナトリウムに分かれて水に溶けているのですが(どろっとした状態:ゾルと言います)、アルギン酸はカルシウムと出会うとすぐにこれと強力に結び付き、水に溶けない状態になります(ゼリー状:ゲルと言います)。この不溶のゲルが膜となってゾル部分を包み、プヨプヨしたあのイクラの構造を形成するわけです。(ただしアルロイドGを使うと、緑色でしかも風味もそのままという不気味なイクラになりますが・・・)

ちなみに上記実験方法は、工学的にはマイクロカプセルの製法『コアセルベーション』にあたります。マイクロカプセルというものは生活のあちこちに使われています。例えばカーボン紙でもないのに上からペンで字を書くと下側の紙に写るという特殊な紙がありますよね?これは紙の表裏に透明なインクと発色剤がそれぞれマイクロカプセルに封入されて塗られているんです。上から強い圧力をかけるとカプセルが壊れて中身が混ざり、インクが発色するという仕組みです。医薬品でも、胃で溶けないマイクロカプセル(成分が胃酸で壊れないように保護)や、ゆっくり溶けるマイクロカプセル(ゆっくり薬が放出されて長く効く)のような形で応用されています。

ちなみにアルギン酸はそもそも『昆布やワカメのぬめり』の成分です。意外なものが応用され、気が付かないうちに身の回りで役に立っているのが化学というわけです。

注:あくまで実験ですから、実際に作って食べたりはしないで下さい。

 

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